研究内容
Contents
膨潤性止水材
膨潤性止水材類の開発に伴う環境修復技術
膨潤性止水材とは合成樹脂エラストマーを母材とし,高吸収性ポリマー,充填剤および溶剤等を配合した流動性のある止水材である。土木分野において膨潤性止水材は,鋼矢板や鋼管矢板の継手箇所の遮水性を高めるために,継手遮水処理材として多用されている。なお,継手箇所に塗布もしくは接着された膨潤性止水材は,地盤中の水と接触することで膨潤して継手内通水空間を塞ぎ,結果的に継手箇所の遮水が図られる。 近年では,鋼製遮水壁の高遮水化において,継手遮水処理材として膨潤性止水材の積極的な適用も試みられている。
一連の研究では,膨潤性止水材が接着された鋼管矢板継手の遮水性能に関して数多く報告しており,例えば,淡水および人工海水(3%食塩水)の環境において,換算透水係数 で 1×10-8cm/sオーダーの低透水性を確保することを明らかにしている。また,原位置における膨潤性止水材の剥離や遮水性能等も同時に検証しており,概ね良好な結果を報告している。さらに,鋼矢板や鋼管矢板等の継手遮水処理材に採用する膨潤性止水材の更なる高膨潤化ならびに高強度化を目的として,膨潤性止水材の組成と膨潤率特性および膨潤体膜強度特性を種々の実験により検討している。同時に,継手遮水処理材として矢板継手内に採用された膨潤性止水材の長期性能を,膨潤体膜強度の経時変化ならびに耐圧力との関連から考察を加えている。
コーティングによる廃棄物処理・地盤改良(特許出願中)
現在,種々の固体系廃棄物を地盤工学的に有効利用する目的で,セメント等の固化材による固化処理が,一般的に行われている。しかしながら,固化処理された固体系廃棄物(固化処理土)からの有害物質(重金属等)溶出に関わる懸念が未だ残されている。よって,固化処理による固体系廃棄物の地盤工学的な有効利用においては,処理土の力学特性の改善とともに,有害物質の溶出抑制(不溶化)も重要な課題である。また,東日本大震災によって発生した大量の災害廃棄物を処理・有効利用する際にも,上記と同様の課題が指摘されている。
遮水性コーティング処理とは,熱可塑性エラストマー,高吸水性ポリマー,充填材,および溶剤を配合する吸水ポリマー系の止水材(遮水性コーティング材)によって,固体系廃棄物を粒子単位で事前コーティングする技術である。遮水性コーティング処理が実施された土(遮水性コーティング処理土)は,固体系廃棄物の粒子表面が難透水性の止水材で均一にコーティング(以下,被覆とする)されているため,粒子表面に付着し得る重金属等の溶出を抑制することができる。同時に,遮水性コーティング処理土は,遮水コーティング材が間隙水を吸収して膨潤し当該間隙空間を塞ぐため,その遮水性能の劇的な向上が期待できる。なお,遮水性コーティング材の母材である膨潤性止水材は,主に鋼矢板継手部の遮水処理材として適用されている。さらに,一連の研究における膨潤性止水材の遮水性コーティング材としての利用は,溶剤を含んだ塗料形態(乾燥工程が必要)の現行膨潤性止水材で対処できない条件にも対応でき,膨潤性止水材の適用範囲の拡大に寄与することが期待できる。
一連の研究では,遮水性コーティング処理土が地盤改良や遮水処理等で有効に活用されることを目的として,室内実験を通じて固体系廃棄物を利用した遮水性コーティング処理土の重金属溶出特性,アルカリ溶出特性(pH経時変化),および遮水特性を評価・検証している。
自己修復機能を有する遮水シートの高度化
廃棄物の最終処分場において最も重要視されるリスクは,処分場内の汚染物質が外部へ流出することである。処分場の遮水構造物である遮水シートは主として2mm厚程度のポリエチレンシートが使用されており,敷設時の溶着作業の不良,敷設後の保護砂敷設時の破損及び供用後の重機等による破損が懸念される。
一連の研究では,・・・
廃棄物処分場(遮水工)
廃棄物処分場の遮水浄化促進遮水工の開発(特許出願中)
海面廃棄物処分場の建設に際しては,側面のみならず底面の遮水工構造に対しても水溶性有害物質の封じ込め機能が求められている。さらに,海面廃棄物処分場では,内陸廃棄物処分場のような浸出水集排水設備の設置が義務付けられていない。そのため,海面廃棄物処分場の多くは,処分場内に存在する水溶性有害物質の浄化を促進する能力を有していない。すなわち,海面廃棄物処分場において埋め立てられた廃棄物中に存在する水溶性の有害物質は,廃棄物処分場の封じ込め概念によって半永久的に管理されることになる。なお,廃棄物処分場における埋立廃棄物層から水溶性有害物質が除去されることを「浄化」として定義している。一方,廃棄物を埋め立てることによって造成された海面廃棄物処分場は,港湾機能や都市機能などのための用地として利用(跡地利用)するという目的も有している。そのため,浸出水集排水設備を有さない処分場において封じ込められた状態で存在する水溶性有害物質は,海面廃棄物処分場の跡地を利用する際に障害をきたすことも十分考えられる。よって,海面廃棄物処分場の建設から跡地利用に至るライフサイクルを考慮した場合,処分場内に存在する水溶性有害物質の封じ込め,ならびに水溶性有害物質の浄化促進技術についても検討する必要があると考えられる。
一連の研究では,建設時から将来にわたって廃棄物処分場の環境安全性を持続ならびに保障するため,鋼管矢板部材である各種継手に「遮水・浄化促進」技術を導入することで,海面廃棄物処分場内における水溶性有害物質の封じ込めに加え,水溶性有害物質の浄化促進をも期待できる鋼管矢板遮水壁の構築を提案している。
廃棄物処分場の有害物質封じ込め性能評価
海面廃棄物処分場における側面遮水工には地震,波浪,高潮および津波等の海上特有の諸外力から埋立地を護る護岸機能とともに,廃棄物からの浸出水が海域へ流出するリスクを軽減,回避もしくは未然防止する機能が要求される。
一連の研究は側面遮水工の一つである鋼管矢板遮水壁に着目し,継手部から浸出水の局所的な漏水を表現し得る評価モデルを検討し,継手部の3次元的な配置ならびに透水係数分布を考慮した鋼管矢板遮水壁が設けられた海面廃棄物処分場の汚染リスクおよび汚染リスク低減効果を,3次元浸透・移流分散解析によって評価している。なお,海面廃棄物処分場における有害物質を含んだ廃棄物浸出水の海域漏出の可能性を汚染リスク,また浸出水の海域漏出を軽減,回避あるいは未然防止する側面遮水工の効果を汚染リスクの低減効果として定義している。鋼管本管に比べて高透水性の継手部を有する鋼管矢板遮水壁に対して実施した汚染リスクおよび汚染リスク低減効果の評価では,海面廃棄物処分場の外域において継手部から有害物質の局所漏出によって,換算透水係数に基づく現行評価モデルと比べて早期に環境基準値を上回る有害物質の汚染リスクを確認している。従って,鋼管矢板遮水壁に関する汚染リスク低減の評価では,継手部の3次元的な配置ならびに透水係数分布の考慮が望ましいことを提案している。
廃棄物埋立護岸の遮水性・構造安定性評価
我が国では,土地利用および周辺住民との合意形成に関わる問題等により新規の内陸廃棄物処分場建設が困難な現状である。そのため,都市部の港湾域に展開する海面廃棄物処分場が果たす役割はますます大きくなっている。海面廃棄物処分場における埋立護岸は,廃棄物,建設発生土,および浚渫土砂の海面埋立処分に対応して,港湾保全との整合を図りつつ,埋立処分する空間を確保するためのものである。埋立護岸は,波浪,高潮,津波などに十分安全であるとともに,保有水などが海域へ流出することがない構造でなければならない。そのためには埋立護岸の遮水性を確保しなければならない。ある研究では,埋立護岸に二重鋼管矢板を適用した海面廃棄物処分場の遮蔽性能を評価し,遮水・遮蔽性能に必要な鋼管矢板の性能を議論している。一方,廃棄物埋立護岸が果たす上記の遮水性能は,波浪,海面廃棄物処分場内外の水位差,軟弱地盤に起因する沈下,および地震等によって損なわれてはならない。また遮水性の埋立護岸では,処分場内の保有水が場外へ漏出しないことから処分場内で形成される残留水位が,外洋水位を上回ることが報告されている。外的不安定条件に曝された埋立護岸が十分な遮水性能を発揮するためには,各条件下において埋立護岸が構造的に安定していなければならない。
一連の研究では,埋立護岸の遮水性に起因する処分場内外水位差,および地震外力の構造不安定要因が,二重鋼管矢板護岸の構造安定性に与える影響を議論している。
社会基盤・廃棄物の環境経済
災害廃棄物処理・管理利用の環境影響評価
2011年3月11日14時46分,本州北東部の東方海域でマグニチュード9.0の巨大地震が発生し,広い範囲が震度6以上の強震に襲われ,その後,沿岸部を大津波が繰り返し襲った。この苛烈な自然現象により,東日本各地域にて人命,ライフライン,ならびに社会基盤等,大きな被害を受けた(すなわち,東日本大震災である)。また,東日本大震災では,特に岩手県,宮城県,ならびに福島県での津波による被害が大きく,環境省や農林水産省の推計によると3県の沿岸市町村で発生した災害廃棄物量は約2,200×104tに上る。ここで,宮城県の災害廃棄物発生量は同県の一般廃棄物処理量82.5×104tの約20年分に相当し,自県のみで処理を遂行するためには数10年レベルの多大な時間を要すると想定できる。上記のとおり,甚大な量の災害廃棄物が突如として発生したことに対して,適切な処理の実施が求められる。現状では,一次仮置き場から二次仮置き場への運搬・粗選別は進んでいるものの,その後の処理方針ならびに仮置き場における環境対策が十分に考慮されているとは言い難い。このような状況を顧みた時,最も優先すべきは災害廃棄物の迅速な処理であるが,同時に中長期的な視点に即した,すなわち環境影響を考慮した処理も非常に重要である。それは,災害廃棄物の処理に伴う二次的な環境問題によって,復往や復興が阻害されることにもなり得るためである。すなわち,災害廃棄物の迅速な処理と処理に伴う環境問題を総合的に考慮することが,東日本各地域の復往・復興に関しては重要であると考えられる。なお,環境省から発表された災害廃棄物の処理に関するマスタープランにおいては,処理と同時に,災害廃棄物の再利用が重要視されている。
東日本各地域における廃棄物最終処分場の残余容量等を考慮した場合,災害廃棄物の処理には他県の協力が必要不可欠であり,災害廃棄物を他県が受け入れる可能性(広域処理の可能性)も検討する必要がある。既に東京都や山形県は災害廃棄物の受入れに積極的であるものの,放射線物質を含む災害廃棄物の対処法等に関して,多くの県で自治体と住民とで議論が起こっている。すなわち,現状において災害廃棄物の広域処理が推進されているとは言い難い。一方,日本における地震の危険性を想定した時,災害廃棄物を広域的に処理するシステムの構築は重要であり,そのための協力体制を事前に構築する必要もある。
一連の研究では災害廃棄物として津波堆積物に着目し,環境影響を考慮した処理の在り方を議論している。ここで,莫大量の津波堆積物を処理する際には,平時以上の環境影響が考えられる。一方,早急な復旧・復興を成し遂げるためには,津波堆積物の処理を速やかに完了させることが重要である。そこで,津波堆積物の処理における環境影響および処理時間の二面的な軸を持つ環境影響評価手法を検討していることで,処理に要する時間と環境影響を総合的に評価している。同時に,様々な処理シナリオを設定し,当該環境影響手法を用いて適切な津波堆積物の処理方法を提案している。なお,津波堆積物の処理には様々な不確実要素が包含されているため,感度分析ならびにモンテカルロシミュレーションを用いて,処理ならびに環境影響の不確実要素を考慮した環境影響評価を実施している。
廃棄物の有効利用における環境経済性評価
我が国では廃棄物量が年々増加の一途を辿っている。一方,現在では関連する技術の発展に伴う廃棄物の縮減およびリサイクルが促進され,相対的に最終処分場の残余年数が増えてきている。しかしながら,新規最終処分場の設置が難しいことから,廃棄物に対する更なる対応は依然として望まれている。上記を解決するためには,これまでの大量消費社会から循環型社会への変遷が必要となってくる。現在,資源有効利用促進法によって事業者による製品の回収やリサイクル実施等,リサイクル対策を強化するとともに,3Rを促進することで循環型社会システムの構築を図っている。その中でも,建設業は特定再利用業種として,当該業種に属する事業者は再生資源または再生部品の利用に積極的に取り組むことが求められている。実際,建設業は産業廃棄物の業種別排出量(平成17年度)の約20%を占めており,特段早期に対策を講じるべき業種である。しかしながら,建設副産物を再資源化することが技術的に可能であっても,当該再資源化製品の最終需要や再資源化施設等がなければ,結果的に建設副産物は廃棄物とみなされる。建設副産物のリサイクルを阻害する主な要因の一つには,バージン材と比較してリサイクル材の単価が高価なため,市場性の低下が挙げられる。しかしながら,これは単にコストの面においてのみリサイクルを捉えている結果として考えることができる。リサイクルを実施する本質は,持続的な発展を継続するための環境保全である。よって,廃棄物のリサイクルの事業性を評価する際には,実際に要するコスト面のみでなく,環境への影響も考慮する必要があると考えられる。換言すれば,廃棄物のリサイクルにおける様々な事業活動は,環境影響評価や環境会計的手法を用いてライフサイクルを通して環境影響をも内部化して評価・計上することで,実際に要するコストと環境影響の相互バランスを考慮した総合的な評価を行うことが重要である。そこで,総合的な評価のため,経済効率性と環境負荷量の両者を考慮できる概念として社会環境効率性を新たに定義している。すなわち,費用対効果を通常の経済効率性として考えると,費用と環境負荷の総和に対する効果が社会環境効率性である。なお,社会環境効率性の具体的な指標としては,環境負荷を含めたトータルコスト等があり,一連の研究ではこれらの指標の算定法を提案している。しかしながら,廃棄物のリサイクルを取り巻く状況には数多くの要素が複雑に絡み合っており,リサイクル材が社会環境効率的に優れている,または劣っているという解が一つに絞られることはない。
一連の研究では直接コストに加え,環境負荷を環境コストとして換算することで,廃棄物リサイクルを社会的に評価する社会環境効率性評価手法を検討・試作している。さらに,循環資源として位置付けられる建設系廃棄物の中でも再資源化等率が比較的低い「建設汚泥」のリサイクルに着目している。なお,建設汚泥のリサイクルには様々な不確実性要素が絡み合っているため,検討・試作した社会環境効率性評価手法へ感度分析およびモンテカルロシミュレーションを組み込み,すなわち,建設汚泥のリサイクルに対する不確実性をも考慮した社会環境効率性評価を実施している。
社会環境会計論に基づく廃棄物処理の評価
現在,開発途上国の多くは社会資本整備の遅れ等によって,大気汚染や水質悪化等,様々な環境問題が深刻化しており,国土政策としての課題が顕在している。ここで,一連の研究は開発途上国の内,タイ王国を対象としており,バンコク首都圏における環境問題の中でも自然環境と密な関係にある廃棄物処理に着目している。なお,バンコク首都圏とは,バンコク都にサムートプラカン,パトンタニ,サムートサコン,ナコンパトムおよびノンタブリの周辺5県を加えた地域の総称である。
現状,開発途上国の多くにおいて,各々地域内で収集された廃棄物は無処理のまま,直接埋立処分されており,これが廃棄物処理の主流を占めている。ただし,当該廃棄物処理において未処理で有機物を多量に含む廃棄物が埋め立てられると,汚水や悪臭の発生で埋立処分地の環境悪化をもたらすとともに,嫌気分解によってメタンガス(CH4)等の温室効果ガスが発生する。よって,開発途上国の多くにおいて主流の廃棄物処理は,地球温暖化の一因や自然発火の原因となり,さらに埋立処分地(廃棄物処分場)の環境悪化をもたらしている。
近年,日本をはじめとする先進諸国では,地球温暖化で代表される環境問題に対する関心の高まりに伴い,廃棄物処理等に対する各々自治体の活動を環境影響評価ならびに環境会計を用いて評価する方針へ転換している。すなわち,各々自治体の諸活動は財務的な費用便益に加え,社会環境に対する見かけの費用便益をも計上されることで社会的な評価が下されることになる。ここで,評価主体によって環境負荷や評価手法が異なるため,その社会的信頼性の程度を示すこと自体は困難であるものの,財務的な費用便益ならびに社会経済的な費用便益も計上することで,より良い社会経済活動を選択することができると考えられる。
一連の研究は,タイ王国・バンコク首都圏における廃棄物処理に着目している。具体的には,バンコク首都圏における現状の廃棄物処理システムならびにシナリオとして想定した廃棄物処理システムに対して,環境影響評価および環境会計を適用し,当該廃棄物処理システムに伴う処理コスト,環境負荷ならびに環境コストを定量的に評価している。さらに,処理コストならびに環境コストを総合的に最適化(最小化)し得るバンコク首都圏における廃棄物処理システムを議論している。
LCAを用いた社会基盤構造物の事業評価
近年,環境保全に対する関心は世界的に高まっており,京都議定書に記されたCO2等の温室効果ガス削減目標等が世界メディアを賑わせている。一方,開発途上国では経済の急激な発展において環境規制が追随できず,大気汚染等の環境悪化が深刻化している。一連の研究の対象であるタイ王国・バンコク首都圏における地下鉄整備(バンコク地下鉄建設事業)は,タイ国高速鉄道公社(Mass Rapid Transit Authority;MRTA)が建設主体となり1996年より推進されている。その内,ブルーラインと称される一部区間は国際協力銀行(Japan Bank for International Cooperation;JBIC)の円借款事業として1996年に着工され,2004年には運行が開始された。ここで,バンコク地下鉄建設事業の背景には,バンコク首都圏における慢性的な交通渋滞および大規模公共交通施設の欠如等に起因する環境問題が挙げられる。バンコク地下鉄建設事業で代表されるように,社会基盤構造物は国や地方自治体等の公共団体からの整備補助,もしくは国際的な政府開発援助(Official Development Assistance;ODA)を受け,公共事業として建設ならびに運用されることが多い。すなわち,社会基盤構造物は公共性が高いため,整備事業自体に起因する費用および便益のみを評価するのでは不十分である。言い換えれば,社会基盤構造物整備事業は,周辺環境や周辺社会への影響を十分に配慮して実施する必要がある。社会基盤構造物の整備が及ぼす環境影響の一つには,温室効果ガスの一つであるCO2の排出等が挙げられる。例えば,社会基盤構造物の整備においてCO2を多量に排出すれば,それは将来の社会へ多大な負担を強いる結果をもたらす。すなわち,事業実施の意思決定においてはCO2の排出等で代表される環境影響を考慮しなければならない。また,環境への関心が高い現在では社会基盤構造物の整備事業においても環境影響を定量的に予測し,さらには評価する必要がある。
一連の研究は社会基盤構造物の整備事業が与える環境影響を定量的に予測し,環境影響を考慮した整備事業評価に貢献し得る環境負荷・便益評価手法を検討している。さらに,当該手法をバンコク地下鉄建設事業に適用し,環境会計に基づくバンコク地下鉄建設の事業評価を試みている。
凝集剤・注入材
建設汚泥の脱水処理技術と凝集剤の適用性
新たな注入材の開発と地盤改良・修正技術
近年,地盤改良を目的とした種々の工法が開発されており,その1つが地盤注入工法である。地盤注入材には薬液系もしくは非薬液系に大別することができ,現場状況に適合した選択が必要である。ここで,非薬液系注入材としてはセメント系,粘土系ならびにモルタル系があり,薬液注入材としては水ガラス系ならびにウレタン系等の材料が使用されている。現状,モルタル系注入材は重量および乾燥時間等,同時にウレタン系注入材にはコストならびに強度等の課題がある。地盤空隙(空洞)の注入改良を考えた場合,注入材に求められる特性は,①注入時に空隙(空洞)の隅々まで充填できる流動性を持つ,②一定時間後に膜を形成し必要な強度を発揮・維持する,③地下水がある場合でも膜形成する等が必要である。空隙(空洞)の注入材としてウレタン系樹脂は既に知られており,実用化されている。
一連の研究では,地盤注入材としてウレタン系膨潤止水材の適用を目的として,土質材料(礫質土,砂ならびに粘土)との混合に伴う膨潤特性を検討している。ウレタン系膨潤止水材に着目したのは流動性があり,且つ膨潤特性を有しているためである。すなわち,ウレタン系膨潤止水材は水等に触れると水分を吸収して膨潤膜を形成する。さらに,膨潤することで空隙(空洞)に充填され易くなり,更に少量の注入で十分に充填効果が期待できる。なお,ウレタン系膨潤止水材は廃棄物埋立護岸,海および河川の締切り工事,上下水道管敷設工事で用いられる鋼矢板の継手部に塗布し,施工後に吸水膨潤して継手部の間隙を埋め止水する用途で広く使用されている。
無機系凝集剤を用いた除染処理方法の開発
鋼(管)矢板・鋼(管)矢板継手
連結鋼管矢板等の開発に伴う環境保全技術
鋼管矢板は1960年代から大規模な締切工,護岸ならびに橋梁基礎として活用され,日本が生んだ画期的な建設部材である。また,近年では鋼管矢板遮水壁としても廃棄物処分場を中心に広く用いられている。ただし,鋼管矢板式構造物の設計では,想定される外力等の諸条件に対して鋼管矢板ならびに継手箇所の力学・水理学特性を定量的に評価しなければならない。特に,鋼管矢板の継手箇所には施工性,剛性および遮水性等の問題が内在しており,これらは鋼管矢板を適用する上で解決しなければならない急務の課題として認識している。そこで,鋼管矢板式構造物における鋼管矢板の継手箇所に内在した問題を克服するため,継手形状ならびに1本1本の鋼管を継手で嵌合するという概念に対して根本的な再検討が必要であるという考えに至っている。そこで,鋼管矢板井筒基礎や鋼管矢板遮水壁で代表される鋼管矢板式構造物に対する革新的な技術として,2本の鋼管がH型鋼であらかじめ溶接された建材である「連結鋼管矢板」を開発した。また,「連結鋼管矢板」に関連する発展的な技術として2つのH型鋼を用いた「H-H継手」も開発しており,「連結鋼管矢板」端部の継手性能の大幅な向上を提案している。
一連の研究では,鋼管矢板式構造物における打設精度や継手遮水処理工法等の諸課題が「連結鋼管矢板」および「H-H継手」の適用によって克服できることを,施工性や遮水性等の観点から明らかにしている。ここで,「連結鋼管矢板」に関する一番の特徴は,剛性の期待できない鋼管矢板継手の占める割合を半減できることである(2本の鋼管および中間H型鋼に対して2箇所の継手)。そのため,通常の鋼管矢板(1本の鋼管に2箇所の継手)に比べ,力学的により高い剛性を有したユニットとして打設することが可能である。なお,「連結鋼管矢板」の両端部に「H-H継手」を施すことは,より高剛性・大断面継手による「連結鋼管矢板」の現場打設嵌合が期待できる。施工前に2本の鋼管をH型鋼で溶接した高剛性の「連結鋼管矢板」は,鋼管矢板式構造物として開削工法の土留め壁,鋼管矢板井筒基礎,鋼管矢板遮水壁,パイプルーフ,ならびに連続地中壁の高剛性芯材等にまで汎用することが可能となる。また,鋼管矢板式構造物として「連結鋼管矢板」を適用した際に期待される効果としては,施工期間の短縮,施工精度の向上,遮水処理の削減,および使用鋼材の縮減であることを,これまで確認している。
2005年8月,開発を進めてきました「連結鋼管矢板」は橋脚井筒基礎工(8セット,16本杭)として国内外を通して初めて適用実績を得た。なお,「連結鋼管矢板」の現場初適用においては,杭長45mの「連結鋼管矢板」が傾斜1/200~1/2130という高い鉛直打設精度を維持し(通常の鋼管矢板の打設精度は1/100で規定),また「連結鋼管矢板」を適用することで25%の工期短縮ならびに10%のコスト縮減を図れることを実証された。
地盤調査
新たな地盤サウンディング機械の適性評価
我が国の発展や国民生活の安全を支えてきた社会資本は,建設後50年を超える構造物もみられるようになり,その技術も建設から維持・管理へと移ってきている。換言すれば,これら社会資本を有効に活用し,その機能を継続させるための再生および評価技術が必要になってきている。河川堤防についてみると,各時代の土木技術を利用して構築されていると同時に,戦後における機械化施工の流れの中で洪水対策機能が付加され,その目的を達成している。一方では,異常な集中豪雨の多発により堤防の決壊等が発生しており,河川災害の発生に対して現状を評価し,補修や対策工に対する方向性を提示する調査・試験方法が必要となっている。原位置地盤調査の一つである貫入試験やサウンディング試験のような計測頻度では,世代の異なる土質構成,地層境界,水みち位置の特定,空洞の有無,ならびにその周辺地盤のゆるみ等の状態を把握するに不十分である。少なくとも5cm以下の頻度の計測が必要と考えられる。同時に,調査・試験の迅速性ならびに経済性は無論のこと,実拘束圧の下で計測値の連続性を確保しつつ,原地盤の現状をリアルタイムに評価できる原位置試験・調査方法が求められている。
このSWS試験機の載荷と回転貫入抵抗による計測システムを利用し,載荷荷重の空油圧制御化と計測頻度の細分化の機能を備え,超軟弱領域の特定化が可能な原位置地盤試験機,NSWS(Nippon Screw Weight System)を開発している。当該NSWS試験機は以下の特徴を有している。
一連の研究は荷重載荷と回転貫入抵抗値を取得できるSWS試験に準拠し,従来のSWS試験装置が不可能としていた0から2500Nの載荷領域と測定間隔の細分化による貫入速度の制御等により,地盤内の空洞・ゆるみを含む超軟弱領域を詳細に検出する原位置地盤調査機として開発したNSWS試験装置について,原位置においてNSWS試験装置を用いた地盤内空洞調査を実施し,原位置地盤調査より得られた知見を議論している。
廃棄物処分場(遮水覆土)
カバーシステムの導入に伴う降雨遮水性能
近年,世界的に環境への関心が高まり,地盤工学の分野でも数々の取り組みが成されている。特に地盤の汚染は,環境地盤工学的手法を用いて取り組まなければならない必須の環境問題である。我が国では,廃棄物処分場,農用地や市街地工場跡地などの地盤環境が,カドミウムや鉛のような有害重金属,トリクロロエチレンなどの有機塩素系化学物質などによって汚染されていることが判明し,早急に地盤工学的対策を講じなければならない。廃棄物処分場では,処分された廃棄物に少なからず含有している有害物質が処分場から漏出し,周辺環境に及ぼす悪影響を未然に防御するため,処分場遮水工の設置が不可欠となる。遮水工としてカバーシステムは,埋め立てられた廃棄物層上部へ設置され,雨水等の廃棄物層への浸透および廃棄物からの発生ガスの放出を防止する。既に欧米主要国では,底部ライナーと並んでカバーシステムが処分場の重要な遮水工要素として認識されている。しかし我が国では,降雨の浸透を直接的に遮断することが期待できるカバーシステムに関する構造基準は存在せず,未だ充分な議論も行われていない。それは,従来より我が国の廃棄物埋立て技術が,有機物を主成分とする廃棄物層へ積極的に水分を浸透させ,廃棄物の生物学的な分解作用により廃棄物を洗浄するといった準好気性埋立の概念に基づいているためである。一方,処分場へ投与される廃棄物が焼却灰へ変遷している近年では,準好気性埋立で代表できる有機性廃棄物の生物学的分解は期待できない。よって処分場では,焼却灰から発生する浸出水による地盤環境汚染が最も重要な課題であり,降雨の廃棄物層への浸透を抑制するカバーシステムの設置を伴う処分場遮水技術の確立が課題となる。
一連の研究では,汚泥を適用したカバーシステムの不飽和浸透特性に基づく遮水評価を行うため,バリア材へ適用する製紙汚泥および掘削汚泥の水分特性曲線を保水性試験によって求めている。測定結果は,van GenuchtenおよびBrooks-Coreyモデルを用いて同定し,汚泥の締固め含水比および乾燥密度と水分特性曲線の関連性を考察している。さらにvan Genuchtenモデルによる同定結果を汚泥の不飽和浸透パラメータとして用いることで,不飽和浸透特性に基づくカバーシステムの水収支分析を実施した。以上の結果,製紙汚泥は,締固め含水比の上昇に伴って,van Genuchtenパラメータであるおよびnが減少し,高含水比で締め固めた製紙汚泥の保水性はより卓越する。一方,低含水比に調整した建設汚泥では団粒した粒子間に比較的マクロな間隙が形成し,高含水比状態では団粒構造を形成せずに締め固められる。建設汚泥の保水性へはこれらの間隙構造の形成が寄与する。水収支分析による締固め汚泥を適用したカバーシステムからの漏出水量は,各地域における降水量の変動に伴って漏出時期が異なるものの,分析期間を通してカバーシステムの設置により尾鷲,京都,および東京で降雨の99%以上が遮水可能であることを示している。
遮水材としての廃棄物(汚泥)の有効利用
処分場で管理される廃棄物は,社会経済活動の高度化に伴って,大量生産・大消費・大量廃棄型からの脱皮が求められるようになって廃棄物発生量が抑制されつつあるものの,廃棄物の質の多様化と廃棄物処分場の残余容量の逼迫などが生じている。近年では,建設工事の大型化,大深度地下空間有効利用の拡大などに伴って,発生土の排出量が急増している。発生土は,元来地盤として存在していた材料であるから積極的に再利用されるべきものである。地盤工学分野では,発生土を建設系廃棄物ではなく建設副産物として積極的に有効利用する技術を発展させてきた。しかし,非常に軟弱な発生土は,廃棄物処理法で「汚泥」に該当し,産業廃棄物とみなされるものもある。よって,建設汚泥は脱水や乾燥処理を行った後,処分場に埋め立てられる。しかし,建設汚泥の地盤材料としての再生利用は,処分場の逼迫や資源の有効利用の観点から不可欠である。
我が国では廃棄物処分場における残余年数の切迫等により,廃棄物の有効利用が積極的に行われている。 その時代背景下,一連の研究では廃棄物である汚泥材料の廃棄物処分場カバー材としての適用性を検討するものであり,汚泥材料として製紙汚泥および建設汚泥に着目している。室内試験では汚泥材料の工学的諸特性,透水試験,圧縮試験,およびせん断試験を実施することでカバー材としての安定性を検討し,さらに透水試験後の排出液中の有害物質含有量分析より廃棄物の有効利用に伴う環境影響評価を実施している。その結果,製紙汚泥,建設汚泥とも有効利用に伴う環境適合性は環境基準値を満足しており,カバー材として要求される斜面安定性,低透水性を十分に満たしていることを明らかにした。併せてカバー材としての長期挙動を評価するべく遠心載荷試験を行い,長期的な透水性および圧縮特性を検討した結果,遠心力場においても室内試験と同程度の特性を示すことを確認している。それらの特性は10年におよぶ長期にわたって維持し続けることも明らかにしている。一連の研究成果は地盤工学,化学,そして長期的挙動の見地から製紙汚泥および掘削汚泥が処分場カバー材として適用可能であることを示している。
廃棄物の有効利用
固化助材としての各種石炭灰類の有効利用
平成7年度に全国で発生した建設系廃棄物は約9,900万トンであり,毎年漸増傾向にある。その中で建設汚泥は約10%を占めている。一般に,これらの建設汚泥は非常に軟弱であり,運搬などの取扱いをはじめ処分地の確保も困難である。また,有機物を多く含有することから,固化して有効利用を図る場合にも固化の程度が吹かう実であり,固化材を多く必要とする問題をもっている。
建設汚泥の用途としては,流動化処理土をはじめ,発泡材の混入による軽量土などの研究が鋭意行われている。しかし,建設汚泥の利用率はわずか6%であり,近年はこれが減少する傾向を示している。今後,建設工事の大型化,地下空間の有効利用および都市の再開発などにより,再利用が困難な建設汚泥の発生量は増大することが予想される。廃棄物の範疇ではない建設発生土をも含めて,これら建設泥土の用途拡大と再資源化は緊急の課題である。
石炭灰は産業副産物・廃棄物のひとつである。平成8年度の発生量は700万トン以上で今後も増加傾向にあり,輸入される原料炭や燃焼炉の種類によって品質は多様化してきている。現在,石炭灰は発生量の約50%がセメント原料や盛土などの土木材料として利用されているが,残りは廃棄物処分場などで処分されている。石炭灰はポゾラン材として長期にわたる硬化作用をもっていることから,固化材料としての利用が期待されている。
一連の研究では,建設現場から発生する軟弱な粘土をセメント系安定材により固化処理する際に,固化助材として用いる産業廃棄物の有効性について実験的な検討を実施している。そこでは,産業廃棄物である石炭灰,コンクリート微粉末および製紙焼却灰が固化助材として有効であることを確認している。さらに,泥土の固化処理における固化助材の混合は,目標強度に達するセメント添加量の節約,養生日数の短縮,ならびにコスト縮減を可能にすることを明確にしている。